修理事例をご覧いただき、ありがとうございます。
パソコンドック24 仙台駅東口店の相沢です。
今回は、テレワーク中によくある、パソコンに飲み物をこぼしてしまったノートパソコン(ASUS社製 型番E203M)からデータ復旧を行った事例をご紹介します。
事前にお客様からご連絡があり、
「アルコール飲料を大量にパソコンにこぼしてしまった。
他のデータ復旧専門業者に持って行き、診断をした結果、特殊な記憶装置(eMMC)の為、データ復旧不可能と断られてしまった」
とのことでした。
さて、今回は水没案件と呼ばれる種類の作業となります。
この場合は、糖分のあるアルコール飲料ですが、液体侵入系は全て『水没』と扱われます。
まずご説明させていただきたいのは、こういう場合の対処で、ネットなどではよく、
「水没は乾燥させれば直る」
と言うブログや記事、動画がたくさんありますが、これは必ずしも正しくはありません。
説明のため、
「なぜ液体が入るとパソコンが故障するのか?」
からご説明します。
大まかな分類になりますが、答えとしては、
- 液体そのものがパーツを破壊して故障する。
- 液体に電気が流れてショートして部品が故障する。
- 液体が内部のパーツの腐食やサビを引き起こして故障する。
の3種類になります。
それぞれ故障が発生するタイミングが違いまして、
1.は、浸水したらすぐに発生する故障。
2.は、浸水したまま電源を入れたりして通電したときに発生する故障。
3.は、浸水した後に乾き始めてから発生する故障。
と言う形となります。
1.に関しては、どうにもできないとしても、2.3.に関してはある程度、努力の余地がありますので、その点からご説明します。
まず、2.に関しては水没時に電源が入っていればシャットダウンし、その後は安易に電源を入れず、バッテリーが外れる機種はバッテリーを取り外して、水分がなくなるまで乾燥させることです。
ここだけ見るとネットでよく目にする「水没は乾燥させれば直る」は正しく思えます。
しかし、3.に関してはそうとも言えません。
サビや腐食は酸化還元反応、つまり酸素(空気)と触れることで悪化する場合が非常に多いからです。
特に、真水や純粋ならまだ良いですが、
・糖分が含まれる清涼飲料水(ジュース等)やアルコール飲料
・塩分の含まれる味噌汁やカップ麺の汁
等は悪化の懸念が大きいので、単純に乾燥させるのはリスクがあります。
では、どうすればよいのか。
「分解して、洗浄してから、乾燥させれば良い」
と言うことになります。
余談ですが、
「ちょっとしかこぼしていないなら大したことはない」
と言われる事もあるのですが、これも一概に正しいとは言えません。
最近のパソコンは小型に、薄型にと進化していますので、液体がパソコン内のマザーボードと呼ばれる電子回路基板にまで到達した場合、毛細管現象で基板を這うように奥へ奥へと勝手に浸水してしまいます。
さて、今回のご依頼ですが、
バッテリーを外したところ、中はこのような状態です。
右側にあるのが前記したマザーボードと呼ばれる基板です。
シルバーの部分はキーボードの裏側で、本来はここにバッテリーがあったのですが、危険でしたので外してから撮影しました。
このパソコンはOS等のデータが入っている記憶装置のチップ(eMMCと呼ばれます)がマザーボードにハンダ付けされていて取り外しが困難なタイプのパソコンでした。
このタイプのパソコンからデータを取り出すのは一苦労ですが、それでもいくつかデータ取り出し方法があります。
- 水没したMBをなんとか動作するように修理して、OSを起動してデータを抽出する
- eMMCと呼ばれる記憶装置のチップを、熱風機等の特殊な方法で外して、専用機材で解析してデータを抽出する。
このどちらかがわかりやすいと思います。
それぞれコストや納期、等々に違いがありますので、お客様とご相談しながら、今回はセオリー通り洗浄から実施していくことになりました。
当店のスタッフは、2011年の震災当時、津波に流され塩水に浸かったパソコンからもデータ復旧を行っていた実績がありますので、こういったご依頼に関してもしっかりと対応しております。
まずは洗浄の為、マザーボードを取り外してみました。
基板の汚損箇所は撮影しても解りにくかったので、裏蓋と一緒に撮影しました。
ほぼ満遍なく、全体的に浸水痕が確認できます。
まだかなりベトベトしていたのですが、逆に乾いていなかったので洗浄で回復する可能性があると判断しました。
洗浄の過程はいくつかあるのですが、
精製水で洗浄→洗浄用の溶剤を使用→再度精製水で洗浄を行うことで、まずは大きく汚れを落とします。
次に、残った汚れの性質や度合を確認して、必要であれば溶剤+洗浄機に掛けます。
目視で汚れがなくなったら、次は顕微鏡で確認します。
汚れが確認できなくなったら、次はチップの裏等の目視できない範囲の浸水を疑い、溶剤に漬けて洗浄します。
最後に乾かし、再度目視と顕微鏡でチェックして洗浄は完了です。
次に、回路のチェックです。
導通チェックや部品の腐食や劣化を確認し、必要であれば障害状況にあわせてハンダ付け等の様々な処置を実施して行きます。
全てが終わったら、最後に別なスタッフを呼び、見落としが無いかダブルチェックしてから通電確認を実施します。
ご覧のように無事、OSが起動しました。
これで起動しなかったとしても、上記のようにまだデータを取り出す他の手段はあるのですが、やはり見た目で正常に動いていると安心します。
この後にもバックアップの作成やメモリなどの各種テストを実施しますが、割愛させていただきます。
今回はあくまでデータ復旧の手段として洗浄でしたが、運良くOSを起動まで持っていくことができました。
他の業者でデータの復旧不可能と言われるような浸水・水没でも、早めに対応すればお客様の大事なデータを失わずに済むこともあります。
安易に乾かしたりする前に、諦めてしまう前に、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
PC修理 水こぼし・水没(修理に関する参考費用はこちら)
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